病院でレントゲン撮影を行った経験が一度もないという方はほとんどいないのではないでしょうか?レントゲン撮影はそれほど誰にでも身近な検査項目のひとつとなっております。風邪をこじらせても胸部X線写真を撮影しますし、足首の捻挫などでも足関節のX線写真を撮影しますよね。このレントゲンに映し出されている組織は骨や腫瘍などのX線の透過性が低い成分で構成されている組織たちなのです。では、X線に反映しにくい成分で構成されている組織はレントゲンに映しだすことはできないのでしょうか?そうですね、ここで造影剤の出番が出てくる事になります。ここでは、造影剤がなぜレントゲンに映し出されるのか?その仕組について学習します。
手術を行う際や検査を行う際など、造影剤を行う機会は意外と多くあることをご存知でしょうか?
この造影剤とは、読んで字のごとく、
●影を人工的に造りあげる
事を意味し現在のX線検査においては欠かすことのできない薬剤となっております
このレントゲンの技術が考案されたのは今から100年以上も昔の1895年です。
レントゲンが考案され実用化されはじめた当時、レントゲンによるX線写真の使用目的は骨折などの骨の症状の確認が主流でした。
現在では手術前に患部を特定したり進行状況を確認する血管造影など様々な検査等でも行われるようになっておりますが、当時の医学会では実はこれだけでも大きな進展と言えました。
これは骨折の中でも、外観からは判定が難しいとされる
☆骨折の有無
☆骨のひび
☆骨の変形の有無
といった怪我の状態を目視で詳細な部位に至るまで確認できるようになった為です。
骨を強くする。骨を成長させる為にカルシウムをたくさん接種すると良い。
成長期の子供は牛乳をたくさん飲むほど骨が成長して身長が高くなる。
このような話をあなたも一度は耳にされたことがあるでしょう。
牛乳をただがぶ飲みするだけで身長が伸びるという事ではありませんが、牛乳の主成分はカルシウム。
このカルシウムが骨にとっては重要な成分であることは間違いありません。
実際に人体に存在する骨組織の構造成分の主流は「カルシウム塩」と呼ばれるカルシウム成分で構成されております。
尚、X線に骨が綺麗に映し出されるのは、このカルシウム塩がX線に鮮明に反映される為です。
ですから骨(カルシウム塩)は、特に造影剤を必要としない「天然の造影剤」と言っても良いでしょう。
造影剤について学習をする際は、まずX線減弱係数という言葉を把握しておく必要があります。
X線減弱係数とは、X線の透過性をあらわす指数です。
前項で解説したとおり、骨組織は、カルシウム塩を主要成分とする組織であることからX線を照射すると画像として鮮明に映し出されます。
このようにエックス線に鮮明に映し出されるものは透過性の低い成分組織であると言えます。
対して、臓器器官や血管組織などはX線の透過性が非常に高く、そのまま臓器や血管にX線を当ててもにレントゲンに鮮明に映しだされる事はありません。
映しだされないというと語弊があるかもしれませんが、透過性が高いものは黒く映しだされると覚えても良いでしょう。
臓器や血管組織などは前項でも解説した通り透過性が高い成分で構成されているため、白色で映し出されることは通常はありません。
しかし、例えば肺に腫瘍が発生していたり、肺炎などの炎症症状が発症している場合は、その部分の透過性が低下し白く映し出されるようになります。
その為、X線の透過性の低い成分、いわゆる臓器や血管などのような組織には
●X線減弱係数の差が大きい物質
を導入する事で、透過性の強弱の仕組みを利用し臓器や血管などであってもX線に鮮明に映し出すことが可能となります。
この目的において使用される、X線減弱係数の差が大きい物質こそがバリウムやヨードに代表される造影剤なのですね。
未破裂脳動脈瘤が確認された場合は、早い段階で手術を検討するケースも増加しております。未破裂状態の場合は必ずしも手術によって脳動脈瘤を除去する必要はないもののやはりいつ破裂するかどうかわからない状況での日々の暮らしは不安を伴うためです。脳動脈瘤に限らず、このように事前に血管の状況を確認する際にも造影剤を使用する造影検査が実施されます。造影検査の重要性はより詳しい状況を事前に把握することにあると言えます。但し、人体内に導入する造影剤は人体に対して負荷の少ないできる限り安全性の高い成分であることが求められることは言うまでもありません。ここでは、造影剤の危険性に対する心構えと、造影剤に求められる必須条件について見ていきましょう。
造影剤は、前項で解説したとおり、
●X線写真に鮮明に映し出すことが出来ない器官
をX線の透過性の低い物質を導入する事で映像のコントラストを高める為に使用されます。
単純レントゲン撮影よりも、より高度で鮮明な映し出す「CT」に関しても、組織が病魔に冒されているかどうかの判断に至るまでの映像を映し出す事は難しい為、半数近くが造影検査を行なっているのが現状です。
手術などを行う際は、やはり
●本当にその手術を行う必要性があるのかどうか?
●手術時間を迅速に行うためにどのような手術計画を組むべきか?
など、事前により細かいプランとあらゆる状況に応じた事前に想定される状況を確認しておかなくてはいけません。
その為にも、やはり造影剤を使用する事前の検査は重要な役割を担っていることは間違いありません。
造影剤を使用する造影検査の重要性・必要性は理解できたかと思います。
但し、ここでやはりしっかりと把握しておきたい事は、造影検査とは、
●体内に異物を導入すること
によって可能となる検査であるという点です。
不安を募るような言葉に聞こえるかもしれませんが、もちろん驚かそうとしている訳でもなく、危険性を伴う検査である事を事前に把握した上で検査に挑む心構えを持つことが重要という意味です。
造影検査を実際に行った事がある方はご存知かと思いますが、検査の前に必ず「同意書」と記載されている書類にサインをする事が求められます。(詳しくは後述)
その為、造影剤として使用される成分については、幾つかの造影剤としての満たすべき条件があります。
造影剤として使用される成分はまず何よりも体内への危険性及び負担が少ない事が最低限の条件と言えます。
また適切な効果を満たす為にX線の透過性の低い物質であるべき事は言うまでもありません。
これらの条件を満たす有能な造影剤としては健康診断などで行われるバリウム検査などで知られる「バリウム」が有名ですね。
以下に造影剤の必須条件として考えられる要素をあげます。
【造影剤検査の必須条件】
●検査の対象となる周囲組織との「X線減弱係数」の差が大きい成分であること
●化学的に安定している分子構造であり生体に対して副作用が少ないこと
●検査後に速やかに人体から排泄されること
以上3点が最低限求められる造影剤としての条件と言えます。
特に、安全性が確認されている、人体に負荷の少ない成分であり、かつ検査が終了後に速やかに体内から排泄される成分であることは重要な指標です。
また、条件を満たす可能性をもつ成分が今後新たに発見されたり、医療技術の発展に伴い開発される可能性もまだまだ十分にあることを示しております。
造影剤の中でも安全性が高い事で知られるバリウム。このバリウムを使用する検査は皆さんがご存知のバリウム検査ですね。健康診断や人間ドッグの多くでは後半、もしくは最後の検査項目としてバリウム検査が検査項目として記載されております。胃腸の検査とも呼ばれるバリウム検査ですが、この検査は胃腸に発生する多くの病気の早期発見に繋がる重要な検査です。バリウム自体は人体への影響も小さく体外へ早期に排出される為、造影剤としては有能な成分であると言えます。しかし、やはり副作用症状が全くでないという訳でもありません。ここではバリウム検査の流れや検査からわかる病気の種類や稀に発症する副作用症状の特徴などを確認していきます。
バリウム造影剤は一般的に広く知られている造影剤のひとつです。
※硫酸バリウム(化学記号:Ba 原子番号:56)
バリウム造影剤は見た目は白い粉末形状をしており水に混ぜると白く粘りのある液体となります。
主に胃や腸などの消化器官の検査で頻繁に用いられ
●人間ドック
など、健康診断などで既にバリウム検査を行った経験のある方も多いかもしれません。
バリウム検査(医学的には上部消化管造影検査と呼びます)で使用される硫酸バリウムは、体内に吸収されることがなく、消化管の内壁に付着し、その後肛門から体外へ排出されます。
また副作用症状もほとんど現れないことから、前項で解説した造影剤の条件ををしっかり満たしている有能な造影剤であると言えます。
もちろん透過性も非常に低く経口による服用後、X線の連続照射によって食道から胃、十二指腸、小腸とバリウムの流動的な流れを画像で確認することも可能です。
バリウム検査では、この消化管の内壁にバリウムが付着している間に、X線撮影を行い胃や腸などの粘膜の形態、疾患の確認を詳細に行なう事が出来るのです。
バリウム検査が行われる多くのケースは、健康診断などの定期健診によるケースが大半です。
また腹痛などで病院の診察を受けた際に病気の可能性が検討される場合でも、バリウム検査が実施されます。
中でもバリウム検査が行われる最大の目的としては胃がんや食道がんを検査によって早期段階で発見できる可能性がある点です。
もし、バリウム検査で胃にポリープなどが発見された場合は胃がんの可能性がないかどうか?次の検査へ進むことになります。
現在は医学の進展により「癌」であっても早期治療に取り組めば高い割合で回復が可能なケースも多く出てきております。
ガン細胞は再発の危険性を常に持つ細胞組織ではありますが、健康診断のバリウム検査によってガンが見つかり、早期治療を行うことで、その後再発をせずに暮らせている方も実際に多くいます。
バリウム検査では前述した食道がんや胃がんの他にも慢性胃炎や胃潰瘍などの潰瘍の発見にも有効です。
バリウム検査で見つかる主な病気・疾患の種類には以下のような病気がありますので覚えておきましょう。
【バリウム検査で見つかる可能性のある病気の一覧】
☆胃がん
☆食道がん
☆胃潰瘍
☆十二指腸潰瘍
☆慢性胃炎
バリウム造影剤検査で使用される硫酸バリウムは非常に優れた造影剤のひとつです。
「造影剤の条件」の項で解説した造影剤としての条件もほぼ満たしており、分子構造も安定しております。
その為、硫酸バリウム造影剤の副作用はほとんど現れないのが現状です。
しかし、硫酸バリウムのごく一部が体内に長期的に残る事があるケースも僅かではありますが確認されております。
最終的には排出されるケースが大半ではありますが、胃壁や腸壁に長期的に付着した場合は、
●便秘症状
●下痢症状
などの副作用症状を長期的に発症するケースもごくわずかですが確認されております。
過度な心配は必要ありませんが、副作用症状を発症した場合は念のため、かかりつけの医師の診察を受けるようにしましょう。
血管造影やCT検査、また腎臓疾患や尿路造影など細かい組織の流れを確認する検査ではヨード造影剤を使用する検査が実施されるケースが多くなります。ヨード造影剤は副作用の心配がよく掲げられますが、近年は水溶性の非イオン系造影剤の普及によりその安全性も徐々に向上してきております。特に脳疾患に関わる病気の可能性が検討されるケースでは脳に張り巡らされている細かい血管組織まで鮮明に映しだすことが可能となる為、ヨードは脳出血や脳動脈瘤、脳梗塞などの脳疾患に関わる検査では重要な造影剤として位置づけられております。ここではヨード造影剤の種類、及び代表的な副作用症状などを確認していきましょう。
ヨード造影剤はX線の透過性が非常に低い性質を持つ無色透明な液体です。
(※ヨード化学記号:I 原子番号:53)
ヨード造影剤は基本的に
●尿路造影検査
●CT検査
●血管造影検査
などの検査の際に使用されます。
ヨード造影剤はヨードの濃度が高まるほどX線写真では、より白く鮮明に写し出され、細かい血管組織までも鮮明に映し出す働きをもっております。
血管造影検査では、ヨード造影剤を使用する検査が現在でも主流であり、腎臓から体外へ排出されるまでの時間や体内へかかる負荷が少ない造影剤のひとつです。
但し、ヨード(葉緑素)を主体とした成分を使用することからアレルギー反応(アナフィラキシーショック等)を示すケースなどもあり、全ての方が実施できる検査であるとは限らない点を把握しておく必要があります。
ヨード造影剤は、水溶性造影剤と油性造影剤の2つの種類に分類されます。
水溶性造影剤は腎機能が正常な方に用いられる造影剤で、注射後6時間程度で約90パーセントが腎臓から尿として排泄されます。
対して、油性のヨード造影剤では、長時間または長期間にわたり体内に成分が残るケースも確認されております。
この2種類の造影剤は検査の目的に応じて使い分けられますが大半のケースでは、水溶性造影剤を使用することになります。
尚、水溶性造影剤は更に分類すると、
●イオン系造影剤
●非イオン系造影剤
に分類されます。
非イオン系造影剤はイオン系造影剤と比較すると「浸透圧」が低く血液に近い状態である為、注入の際に体感する「熱感」などの副反応症状が緩和すると言われております。
血管造影検査などではこの比較的安全性の高い非イオン系造影剤が使用されるのが主流です。
水溶性ヨード造影剤の副作用は、バリウム造影剤と比較すると、多様な副作用症状を発症します。
代表的な副作用症状としては、一般的に最も発生する反応は注入時に即時に起こる熱感です。
この熱感とは、ヨード造影剤成分と血液との
●浸透圧の違い
によって発生し、血管内を流れていくヨード造影剤を熱く感じる事が原因と考えられております。
しかし、浸透圧は徐々に血液と混ざる事で調和する為、この熱感は徐々に消えていくのが通常です。
非イオン性造影剤は血中でイオン化しないことから浸透圧が血液に近い状態であるため副作用が少ないと言われております。
ヨード造影剤の副作用は、造影剤の注入直後からはじまる急性副作用と、造影注入後、しばらく時間を経過してから副作用を発生する遅発性副作用の2種類の副作用症状が確認されております。
尚、急性の副作用症状は、
●軽度の副作用
●重度の副作用
が確認されており、発症率もそれぞれ異なります。
ヨード造影剤の軽度の副作用症状の発症率の統計は約1~2%程度です
軽度の副作用症状として確認されている主な症状としては以下のような症状が確認されております。
【ヨード造影剤の主な副作用症状(軽度)】
☆吐気・嘔吐
☆蕁麻疹・発疹
ヨード造影剤の重度の副作用症状の発症率の統計は約0.01%~0.02%程度です。
発症率としては低く感じられるかもしれませんが、ごく僅かなケースでは死亡に至るケースも確認されております。
※10万人~20万人に1人の割合で死亡する可能性も報告されている
重度の副作用症状として確認されている主な症状としては以下のような症状が確認されております。【ヨード造影剤の主な副作用症状(重度)】
☆血圧低下
☆息苦しさ
☆腎機能障害
☆意識消失
このような状況を見ると不安を感じられるかもしれませんが、重度の副作用症状の発症率は非常に低く、安全性という面ではやはりヨードは有能な造影剤である事に変わりありません。
今後、より安全性の高い成分が造影検査に適用されてくる可能性もありますが、副作用症状を発症する可能性に関しては検査を受ける前にやはり自分自身でしっかりと把握しておく事が大切です。
造影剤を使用する検査を行う際は必ず検査を実施する前に同意書への署名が必要となります。この同意書の文面は弁護士を通して作成された医療訴訟問題に対する文面が多く並んでおりやや難しい文面も多く見られます。しかし、この同意書の存在の意味は近年、インフォームドコンセントに基づく概念の普及により徐々に意味合いが変化してきている部分もあります。医師の説明不足など、後々遺恨を残さないためにも一方だけが理解するのではなく双方がしっかりと状況を認識し信頼関係を築いた上で検査を受ける。このような幅広い目的で同意書の役割・重要性は高まってきているのです。ここでは同意書に記載される主な内容やインフォームドコンセントの概念について学習します。
造影剤を使用する検査をもし受ける際は、医師から渡される造影剤検査に関する
●同意書
へ署名しなければいけません。
これは造影剤検査には様々な副作用症状や危険要素が確認されている為です。
この同意書は病院によって書式が異なるので一概に同一内容とは言えません。
しかし、同意書に記載されている基本的な内容としては
●副作用症状が存在する事に対する事前の同意
●副作用を発生した際に適切な処置を受ける同意
の2点に内容は集約されております。
造影剤検査に限らず、近年の医療では手術や検査の実施前に同意書へのサインが求められるのが通常となっております。
これは、医療訴訟問題に対する裁判への対応策として登場したのが原点にあります。
その為、同意書の文面は弁護士を通して作成されているのが一般的です。
しかし現在は、同意書の当初の目的であった医療訴訟問題に対する対策としての書面という目的だけでなく患者への十分な説明を行う必要性や医師と患者の双方が十分な理解をして病気に挑むより深い意味合いを持った同意書の存在となりつつあります。
同意書の必要性・重要性が認識されるようになってきた背景としてはインフォームドコンセントの概念が急速に普及しはじめてきている事がひとつの原因にあると考えられます。
インフォームドコンセントとは、元々はアメリカが主流となって行なっていた手術前のより細かい状況の説明などを行う行動を意味します。
不安を抱えている患者さんに十分な説明を行いましょうね。という言わば医療概念のひとつとも言えるでしょう。
これは書面を確認するとわかりますが、従来説明不足と考えられてきた医療問題を同意書内容に沿って適切に説明を行うことで医師側も当たり前に思えて省いてしまっていた説明の不足を補うことが可能となります。
また患者側も実は聞いておきたい疑問があった時などに質問をすることができたり、事前に内容をしっかりと把握した状態で検査や手術に挑む事ができるようになるなど、インフォームド・コンセントの重要性は計り知れないものがあると言えるでしょう。
大きな手術などでは医師と患者、そして患者の家族まで結束して病気と戦う姿勢が何よりも重要です。
造影剤検査に関してもインフォームド・コンセントの概念を中心に双方の理解がより深い信頼関係の元に検査に挑む事が大切ですね。