野球肘治療法・治し方

野球選手の悩みの種の一つとも言える野球肘の症状、原因、治療方法など肘関節障害を専門に解説。

◆野球肘治療法・治し方の解説(もくじ)

◆野球肘の独特の症状の特徴と発症原因について

 野球肘はリトルリーグの選手から小学校、中学校の部活動のメンバー、そして高校野球、大学野球、更にプロ野球選手に至るまで年代を問わずに野球選手を悩ませる関節障害の一つです。ここでは野球肘の発症原因・主な症状など基本的な知識について確認します。

 肘関節は多くの障害を発生しやすい関節の一つです。特にスポーツ競技においては「野球肘」「テニス肘」と呼ばれるように競技種目の名前がそのまま取り付けられているような肘関節障害が存在します。

 このようにスポーツ競技を実践しているアスリートに肘関節の故障が生じる原因とはいったいどのような原因があるのでしょうか?

 野球の投球動作やバッティング動作、テニスやバドミントンのようにラケットを振るような動作。

 私たちの体は、このように激しく継続的な肘関節運動を迫られるような環境を想定した構造にはそもそもなっておりません。

 この想定以上の運動、動作が迫られることによって発症するスポーツ障害は多く存在しますが野球肘に関しても最大の原因はこの想定以上の運動量が障害発生の原因であることを把握しておく必要があります。

 尚、肘関節に発生する病気には独特な症状があるケースも多く、その症状を把握する事である程度の範囲までは自分で障害の有無や進行状況を確認する事も可能です。

◆野球肘とは?

 野球肘とは投球動作の繰り返しによる関節への負担によって、肘関節内部に「炎症」「壊死」を発症する肘の病気のひとつです。

 野球肘と呼ばれる所以は、その名の通り野球選手に多く発症する病気であることが所以ですが、医学的な正式名称は「離断性骨軟骨炎」と呼ばれます。

 野球肘は主に野球の投手、ピッチャーに発症するケースが多い事から一般的に「野球肘」と呼ばれる俗称の方が広く知られるようになっております。

 野球肘を発症する原因は、疲労や使いすぎによるもので、野球肘は「オーバーユースシンドローム系障害」の一つとして考えられます。

※オーバーユースシンドローム=使い過ぎ症候群

 野球肘の治療は基本的に炎症を既に発症している段階であることからも安静を保つ事が重要ですが、症状の度合いによっては手術療法の検討も必要となります。

◆野球肘の発生原因

 野球肘の原因についてもう少し踏み込んで確認していきましょう。

 肘関節に加わる継続的な負担は投球動作を行う際に、肘に様々な方向へのストレスがかかる事が原因と考えられております。

 一概に投球動作といっても、たったひとつの投球動作を行う際でも、肘関節には以下に掲げるようなストレスが加わります。

【肘関節に加わる負荷・ストレスの種類】
①外反の伸張ストレス
②内反の収縮ストレス
③肘の外側の圧力による負荷
④肘の後方の磨耗ストレス

 たったひとつの投球動作であってもこれほどのストレスが発生しますが、更に投手の場合は、球種によっても加わるストレスの種類や割合が変化してくる点がポイントです。

 リトルリーグや、小中高生の野球では変化球の投球に関して制限がありますが、この制限も成長過程にある子供の肘関節を守る事が基本的な趣旨です。

 成長期の子供の骨や関節はまだ完成していない段階であり、より肘関節や肩関節への負荷が高い変化球はやめておきましょう。というルール規則です。

 尚、投球動作ではこれらのストレスに加え更に、投球時の腕の振りが加速的に行われる事からも肘関節へ加わる負担は更に大きくなります。

 特に注意したいポイントとしては、

☆速い球を投げる投手
☆投球フォームの悪い選手

 に関しては、関節へ加わる負荷がより高くなることから野球肘を発症する可能性が高くなる点です。

 早い球を投げることができる速球投手は、野球の試合に関しては有利な点ばかりですが、長期的な思考で考えた場合はそれだけ強い負担が肘関節に加わっている事を周りの指導者のみならず本人にも自覚させて上げる事が大切です。

◆子供の野球肘の原因

 リトルリーグなどの少年野球の投手には、特にこの野球肘が多く発症する傾向にあります。

 この少年野球で野球肘を発症する原因の多くは前述した通り成長期の子供の肘関節は大人のようにまだ完成していない事が原因です。

 骨そのものの成長が続くに関与する肘の軟骨部分に負荷が繰り返し加わる事で「軟骨部分」が損傷し炎症を発症する為です。

 また、肘の後方では投球動作の伸展動作の際に、肘頭がぶつかることによる「疲労骨折」が生じる事も多くあります。

 これらは全て投げすぎによる障害の発症が原因です。

◆野球肘の症状の特徴

 野球肘の症状は一定の特徴がありますが、初期段階では大きな痛みを生じません。

 その為、治療の開始が遅れる傾向にある点が、野球肘の特徴と言えるかもしれません。

 初期段階では、投球時にのみ若干の肘関節の違和感を感じます。

 本来はこの違和感を感じた段階で検査を行い治療の必要性があれば治療を直ぐにでも開始すべきですが、この段階で発見できるケースは再発のケースやある程度の知識を保有している方が身近にいるようなケースで、本人が病院に行くような事はなかなかありません。

 この原因は違和感を感じていながらも投球動作、バッティング動作を行うことが可能であるためです。

 しかしその後、症状が徐々に悪化してくると、

☆関節稼動範囲の制限
☆部位的な刺すような痛み
☆炎症による熱感

 を徐々に発症するようになります。

 野球選手が病院の診察を受ける段階の多くのケースは、このように野球肘の独特の症状を既に発症し始めた後であるケースが大半です。

◆関節ねずみの危険性

 肘の外側への圧迫ストレスが強くなると、上腕骨小頭と橈骨頭の軟骨などの骨の損傷が発症します。

 この症状が長期に渡って続き、症状が悪化すると、その後、「骨軟骨片」が骨からはがれるようになり、はがれた骨軟骨片は、肘関節内を彷徨うようになります。

 この剥がれてしまった骨軟骨片である遊離体を「関節ねずみ」と呼び、この関節ねずみはと呼ばれる骨の遊離体は、場合によっては肘に刺すような痛みをもたらすようになります。

 関節ねずみは放置しておいても問題ないケースもありますが、定期的に刺すような痛みをもたらす場合は「関節内手術」を行い関節内の遊離体を取り除く必要があります。

◆変形性肘関節症の可能性

 はがれた骨軟骨片が肘関節に残るようになると、肘関節はその後、「変形性肘関節症」と呼ばれる肘関節の障害へ進行するケースがあります。

 変形性肘関節症とは、その名の通り、肘関節の形状に変形をきたす関節障害で、変形性股関節症や変形性膝関節症など、人体の主要関節部分に変形をもたらす疾患として知られております。

 変形性肘関節症は基本的に「進行性障害」とされており、放置していた場合は症状が徐々に進行していく病気でもあるため、手術療法以外の治療法では完治が難しい関節障害と言えます。

◆肘の手術を検討するケース・リハビリのポイントと復帰までの期間の目安について

 野球肘を発症してしまった場合はどのような治療法があるのでしょうか?ここでは手術を含めた具体的な治療法と復帰までに必要となる治療期間の目安について解説します。

 野球肘の治療の基本は、「投球動作の抑制」がまず何よりも一番優先的に行う治療法です。

 野球肘という障害そのものが、前項でも解説してきた通り使いすぎによる障害である点をまず本人が把握する事が重要なのです。

 症状が軽い場合は、1週間程度で肘関節に発症している炎症症状が回復してくるケースも多く治療そのものは難しくはありません。

 但し、前述した骨の遊離体である「関節ねずみ」などが発症している場合は、場合によっては遊離体の除去手術が必要です。

 また、応急処置としてはアイシングによる炎症の抑制が効果的です。

◆野球肘の手術

 野球肘の治療では、基本的に手術を行う事はありません。

 一般的には投球の抑制などによる「保存療法」が原則です。

 しかし、野球肘の進行の度合いによっては手術を検討する場面も出てきます。

 野球肘で手術を検討する可能性がある症状としては

☆骨軟骨病変の分離
☆関節ねずみの発生
☆靭帯損傷などの合併症

 などの症状を発症しているような場合が手術を行うケースとして考えられます。

 但し、手術療法は基本的に成人の場合のみ検討されるのが通常で、子供の場合は出来る限り手術療法以外の保存療法を主体とした治療となります。

◆野球肘の手術の利点・欠点

 プロ野球の場合オフシーズンに入ると、肘の手術を行ったというニュースを多く耳にするようになります。

 試合の無いオフシーズン中に手術を行い次のシーズンにまた万全に近い状態で戦うために手術を行う訳ですが、手術を行う利点としては以下のようなメリットが考えられます。

☆手術を行うことでパフォーマンスを復帰できる
☆痛みを抱えながら投球を行うなどのメンタル的な負担や不安を軽減できる

 以上は手術療法を取り入れる根本的な理由となりますが、選手として活躍できる時間に制限のあるスポーツ選手にとっては、手術後のリハビリ期間や手術が成功するとは限らないというデメリットもある為、これらのデメリットを超えるメリットが得られる場合に手術を選択する事になります。

 手術を検討する場合におそらく最も考慮すべき点は競技へ復帰するまでのリハビリ期間です。

 オフシーズンに手術を行う野球選手が多いのは開幕にできる限り間に合わせるための期間が確保できる事が大きな理由にありますが、選手の状況によっては、しっかりとしたパフォーマンスを既に発揮できなくなくっているような状態の場合はシーズン中であっても手術を優先し、来シーズンへの準備をすすめるようなケースもあります。

 プロ野球選手はこのように自分の症状の進行状況とシーズンを見据えて手術のタイミングを選択していることがわかります。

◆野球肘のリハビリ

 野球肘の発症の原因は使いすぎによるものです。

 しかし、成長期の子供の野球肘の場合は、その他にも

☆骨・軟骨の未発達
☆筋肉の未発達
☆投球技術の未熟

 などの要因も外部的要因として野球肘の発症原因となっていることが考えられます。

 これは成人の場合も同様で、不自然なフォームでの投球を繰り返す事で肘関節へ負担が余分にかかり、野球肘を発生する可能性を高めている事も考えられます。

 その為、野球肘の対策としては、これらの要因を踏まえて、予防・リハビリなどの対策を行う事が重要です。

◆野球肘のリハビリのポイント・リハビリ期間の目安

 野球肘のリハビリテーションにおけるポイントと注意点について確認しておきましょう。

 野球肘のリハビリテーションは具体的に、

☆十分なストレッチング
☆肘関節周りの筋力トレーニング
☆投球フォームの修正
☆投球前後のウォーミングアップとクールダウン

 などの作業を行いながら準備を整えていく流れとなるのが重要です。

 手術後のリハビリ期間中は、医師とどの程度の期間をかけてリハビリを行い、いつごろまでに実践に復帰するというプランを立てることになるでしょう。

 近年ではこのプログラムを理学療法士などと一緒にプランし、計画的にリハビリテーションを実践していく流れとなります。

 野球肘の治療期間におけるリハビリのポイントは、肘関節周りの可動範囲の確保すること。

 そして低下した肘周りの筋力や投球動作などに必要となる全身の筋力を徐々に取り戻す為の筋力レーニングの実践です。

 手術の内容にもよりますが100%の投球が可能となるまでのリハビリ期間の目安は3ヶ月程度の期間がかかります。

 軽い投球練習は1ヶ月程度で再開できるケースが大半ですが、徐々に体を復帰させていく事が大切です。

 また野球肘の発症原因として悪い投球フォームなどが関与していると考えられる場合は、投球フォームの修正作業も重要なポイントとなります。

 フォームの修正に関しては根本的な問題でもあるため、しっかりとフォームを固められずに競技へ復帰すると野球肘症状の再発を招くことになるのは容易に想定できます。

 せっかくの治療期間ですから、広い視野を持ってリハビリに取り組んでいく姿勢が大切となります。