成長期の子供が踵の痛みを訴えるケースの多くでは踵骨骨端症(しょうこつこったんしょう)と呼ばれる踵の骨の障害を発症している可能性が最も大きくなります。
踵骨骨端症(踵骨骨端炎・シーバー病・セーバー病とも呼ばれる)とは、踵骨(かかとの骨)の先端部分に衝撃や圧力が加わる事によって、骨に微小な骨折が起きたり骨膜に炎症を発症したりする障害のことです。
一般的には踵は丈夫なイメージがあるかと思います。かかとの骨はそんなに簡単に痛みを感じたり、骨折したりするイメージが沸かないのではないでしょうか?
踵は確かに構造的には強い部分であるのは確かです
格闘技の世界では踵落としなんて技術があるくらい、踵は硬く丈夫な組織なのです。
しかし、成長期の子供の踵の場合は話が別となります。
成長期の子供の踵の骨の先端部分には骨端成長板(こったんせいちょうばん)と呼ばれる組織があります。
この骨端成長板は文字通り骨が成長する為に重要な部分で、この骨端成長板があるおかげで骨は大きく成長していくことができます。
※骨端成長板部分から骨は成長する。骨端成長板が骨の両端に見えるライン=線を骨端線と呼ぶ
骨端成長板をレントゲンで見てみるとちょうど薄くなっていて骨が浮いたように見える場所があります。
しかし、この骨端成長板がしっかりと開いた状態であるのは成長期の期間までです。
大人になるにつれてこの部分は薄くなっていき、最終的にはわずかな骨端線だけがレントゲンで確認できる程度になっていきます。
では、もう少し詳しく骨の成長の仕組みについて見ていくことにしましょう。
骨は骨端線のある部分から縦方向に伸びるように大きく成長していきます。
しかし、この骨端線部分の組織はしっかりと骨が結合されるまでの期間は骨よりもやわらかい軟骨組織で出来ております。
※成長期の子供の骨端線部分は柔らかい軟骨組織で構成されている
その為、バスケットボールやバレーボールなどのスポーツ選手が繰り返しジャンプの着地を繰り返したりすることで踵部分に大きな衝撃が加わると柔らかい軟骨組織は衝撃によって痛んだり、先端部分に小さな断裂を起こしたりしてしまう訳です。
また、長距離マラソンや、部活動の外練習などでのランニングなどでも靴のサイズが自分の足にフィットしていなかったり、アスファルト路面を走り続けたりした場合は、やはり踵へストレスが継続的に加わることで痛みを発症する事があります。
骨の成長過程であるからこそ発症するのが踵骨骨端症。まさしく成長期特有の弱点とも言えるかもしれません。
踵骨骨端症は基本的に手術などを行う必要性はありません。
しかし、痛みは長期的に継続しやすい傾向にある疾患でもあります。
完全に治ったと思っても運動を行うとまた痛みを再発する可能性を持つ再発性の高い疾患でもあります。
その為、治療法は原則として「安静」が基本です。
この期間は痛みが強い場合は患部に炎症を発症している証拠ですから「アイシング処置」を行ってゆっくりと過ごすのがベストです。
運動盛りの子供がこの時期に安静にしているのは意外と難しいものです。
しかし、既に炎症を発症している場合は患部の炎症が治まるまで、我慢するしかありません。
尚、安静を保っていると痛みは徐々に軽減してくるようになります。
現実的に歩いたりしても踵に痛みを感じなくなるのは、3日程度の期間が必要です。
但し、この時期に運動を再開すると痛みが再発してしまう可能性がまだ高いので競技への完全な復帰は様子を見ながら検討していく事が大切です。
完全に痛みが解消されるようになるには最低でも一ヶ月はかかると思った方が良いかもしれません。
踵骨骨端症を発症してしまっても痛みをこらえながら運動を継続することは可能です。
でも運動を始めて数分~数十分程度で少しずつ足裏から踵、そしてアキレス腱の付着部位あたりにかけて痛みを発症する様になります。
この痛みはスピードのあるランニングや、ダッシュ動作、ジャンプ動作などの繰り返しで痛みがどんどん増してきて、最終的にはやはり練習中に強い痛みの為、走れなくなってしまうことになります。
踵の痛みを起こしやすい動作・運動
☆ダッシュ動作
☆ジャンプ動作(ジャンプ後の着地も含む)
このパターンをもし繰り返しているようであれば、継続的な骨へのストレスは最終的に疲労骨折や、他の関節障害をもたらすこともある為、1週間程度は運動を禁止する強い心構えが必要です。
部活や実践しているスポーツ競技を継続したい気持ちはよくわかります。
成長期には踵骨骨端症だけじゃなく様々な症状が訪れるものです。
例えば、踵の痛みをこらえて部活動をしている間に知らぬ間に足をかばう動きが身についていて、痛い足の逆の足に負担をかけてしまっていたり、着地を避ける為に足関節の内反捻挫をおこしてしまうなんてことも考えられます。
ひとつの怪我が要因となって他の障害を発症することは決して珍しいことではありません。
その為、出来る限り安静を保ち、最低でも1週間程度は走ったり飛んだり足を使う動作を我慢する必要があります。
もちろん1週間以上経過しても痛みが全く引かない場合は、もっと長期間にわたって運動制限を加えたほうが良いケースもあります。
運動を全くしなくなると筋力がどんどん衰えてきます。
怪我をして休養を取ると怪我をする前の状態にまで戻すことはなかなか大変です。
それでも下半身をしっかり使い込む動きは患部に強い炎症を発症している時はやはり運動は避けるべきです。
しかしやはり筋力を大きく低下するわけにいかないのも事実です。
その為、この安静期間には上半身を主体とした筋力トレーニングをリハビリを兼ねて行ったり、数日で痛みがなくなってくるようであれば、足関節まわりやアキレス腱の柔軟性を高めるリハビリテーションを実施することが有効です。
また踵への負担を軽減する装具を利用するのもひとつの手段です。
スポーツ店などに行くとシューズ売り場の近くに靴のインソールが販売されているのを目にするかと思います。
このようにスポーツショップなどで販売されているインソールには衝撃緩衝材が組み込まれております。
踵骨骨端症を発症すると足を地面につけるだけでも強い痛みを感じる時がある為、このようなインソールを使用するのもひとつの方法です。(インソールなどを使用する治療法を装具療法と呼びます)
また、競技へ復帰後は踵部分のクッション性高める「ヒールパット」を使用して再発を出来る限り食い止めるようにする工夫も有効です。